+++ Indigo Waltz +++
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their daily life 3
an extra of "BODY&SOUL"
- an alchemist -
『今日午後2時ごろ、東京都江東区深川1丁目の首都高速9号深川線の下り線で、大型トレーラーが横転、炎上しました。』
煌々と明るいリビングで、壁の大型テレビ画面では、深夜ニュースのキャスターが深刻な表情で大きな事故の様相を伝えている。
首都高は夜まで通行止めが続いたと、派手な現場映像も交えて伝え・・ていたのだが、伝わってはいなかった。
この部屋の住人たちには。
全く。
テレビを観るのには絶好の正面に位置するソファーに陣取っていながら、当麻の背を包むのはソファーではなく、従兄の腕だ。
その従兄、征士が耳殻を舐めるようにして低音で問うのに機嫌よさげに頷いて、少し仰のいてから従兄の耳元に囁き返す。
緩やかに揺らされながら、、何を思ったのかいきなり目の前の逞しい肩口にかぷりと齧りついた。
はぐはぐと齧る。
まるで歯の生えかけた赤ん坊のようだ。
しばらく齧って満足したのか、一旦顔を上げて濡れた従兄の肩を眺めて。
色素の薄い皮膚に付いた自分の歯形をぺろりと舐めてくすくす笑う。
「当麻・・・」
苦笑とため息で組み立てたような征士の呼びかけは、欠片も咎める響きなどなく。
完全に二人の世界だった。
『では次に、今月14日に亡くなられた元八菱商事会長・田宮隆造氏の通夜が、本日港区の斎場で執り行われました。
○○が斎場前より中継します。』
『・・・・・・政財界をはじめ、関係者の方々が続々と・・・・』
気に入りの手触りを愉しむように、うっとりと従兄の髪を掻き混ぜていた当麻の潤んだ瞳が、一瞬、正気を宿して細められた。
従兄の蜜色の頭越しに、チラリとテレビを見やる。
「・・・ちょ、征・・・・タンマ・・・」
「・・馬鹿を言え。こんなところで止まれるか」
不機嫌そうな征士の声。
「ちょっとだけだから・・なぁ・・待ってって」
「・・・車は急に止まれない」
「どこに車輪が付いてんだよっ」
「せめて急いでゴールしてやる」
「んっ・・・・やだ・・・やだっ・・・・・」
ソファに押し倒されて従兄の体重を受け止めた当麻は、抗議するようにその広い肩に爪を立てた。
が、それも長くは続かず。
結局伸しかかる従兄を突き放すでもなく、逆にその肩へしがみつくのだった。
「・・・もぅ・・・・強引なんだよぉ・・・お前はぁ・・・・」
忙しない息もやっと落ち着きかけた頃、恨みがましい掠れ声が非難する。
きっと腹立ち紛れに従兄の頭の一つでも叩きたいのだろうが、バテタように伸びたまま、腕はぴくりとも上がらない。
咎められたはずの征士は一向に気にする様子も無く柔らかく笑んで、従弟の機嫌をとるように額を合わせ、「すまん」とだけ謝ってみせた。
一旦離れ、部屋に備え付けの冷蔵庫からペリエを取って従弟のもとへ戻る。
力の抜けきった細い体を軽々と抱き起こし、脱ぎ落としてあった自分のワイシャツを羽織らせ。
ソファーの上で自分の膝に座らせてから、キャップを捻り開けた緑色の瓶を握らせる。
普段は脇を固める男たちに何もさせてもらえない若頭だが、こと従弟に対してのみ、非常にマメな男となる。
淀みなく行われたここまでの行動が、全て最愛の従弟へのご機嫌伺いらしい。
ペリエを呷って仰のく従弟の咽を、目を細めて眺めている姿は非常に満足そうだ。
「・・・で、何を待てば良かったんだ?私は」
「・・んぁ・・・ソレソレ」
すっかりお忘れだったらしい当麻だ。
飲みたいだけ飲んで、後はやる、と差し出された不恰好な形状の瓶を受け取った若頭は、残りを呷りながら横目で従弟を促した。
「電話かけるー。・・・子機とって」
きょろきょろ、と周りを見回して背後のテーブルにそれを見出したオレ様の、見事に悪びれない“お願い”。
だが、それらを叶える事に誇りすら感じている(らしい)若頭は、憤ることなく行動に移した。
膝の上の従弟はそのままに、避ける角度で上体を倒し、まずは卒なく空き瓶をテーブルへ退避。リモコンでテレビの音量を絞ったその手に子機をとり、全く反動もつけずに上体を起こした。
大した筋力だ。
「ん、サンキュー」
これまた当然のようにあっさりと電話を受け取る当麻だが、抱き寄せられるまま大人しく従兄にもたれ掛かっているので、征士の機嫌を損ねる筈もない。
過不足のない顔でソファに背を預けた従兄の逞しい首筋に額を寄せて、子機に目を落とした当麻の次の言葉は、なぜか暢気に“なぞなぞ口調”だった。
「三城ン所、何番だ〜?」
「・・・・・・・・・・」
三城ン所 ─── 三城ファイナンスは、組のフロント企業の一つ。
「ファイナンス」といっても貸金業ではなく、株取引を主軸に据える企業である。
年商数千億。
自らもアナリスト兼やり手のトレーダーである代表・三城の根城は、自社ビルの最上階だ。
普段は携帯か、部下が繋いだ回線でしか連絡を取らないので、電話番号は流石の若頭も覚えている訳はない。
再度、テーブルの上へ置きっ放しの自分の携帯電話へ伸びかけた征士の腕は、従弟のしなやかな手に阻まれた。
「コラ。カンニングすんな」
「・・・・あれで掛ければイイだろう」
「お前の番号から掛けたら、受ける方がビビるんだっつーの」
分かってねーなー、と呟く“お嬢”の背にしっかり腕を回した若頭は、納得したのかしないのか、いつもどおりの見事なポーカーフェイスだ。
さん、はち、なな、ろく、・・・とかなんとか、当麻は子供のように呟きながら電話番号を押していく。
従兄の胸の上で。
番号は、覚えていたらしい。
容積が少なそうにも見える小振りな当麻の頭は、しかし絶大なメモリ量を誇るのだ。
「・・・あ、川内の羽柴です」
相手が出たのだろう。電話口に名乗る、当麻の名乗りは、一見長閑なのだ・・・が。
関係者の間で、当麻のこの電話の掛け方は“ステルスコール”と呼ばれている。
“川内”とは伊達本家が居を構える地名であり、そこで“羽柴”と言えば、“お嬢”その人しかいない。
控えめに装って見せて、その実、分かる人間には大いにプレッシャーを与え、身構えさせる名乗りなのだった・・・。
お嬢からのコールだと、気づかなければ気づかないなりに、キチンと対応すれば問題はない。
が、この偽りの穏やかな名乗りに騙されて、チンピラ風情が「はぁ?!どちらさん?」などとナメタ対応をしようものなら、酷い爆弾を食らうハメになること請け合いだ。
しかも、教育的指導という名のカミナリは、組織のピラミッドをある程度上に遡って落とされるので、本当に洒落にならない。
「なんだ、お前かぁ。元気かよ?・・・・・はは・・・・うん、そう。居る?・・・・んー」
祝。
三城の部下は、トラップを無事に通過したようだ。
電話に向かって話す当麻の吐息が従兄の肌を湿らせ、くすくすと笑う振動が胸をくすぐった。
To be continued.
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