+++ Indigo Waltz +++
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their daily life 5
- before birthday -
an extra of "BODY&SOUL"
静かだった。
パソコンのキーボードを打つ軽い音、マウスをクリックする小さな音の他に、音源はない。
人が同じ空間に二人 ─── しかも大の男が二人いるにしては、極めて静かだった。
ときおり、その内の一人が
「・・・・・ん?」
とか
「・・・う〜〜ん・・・・・」
とか唸ってはいたが。
それでも概ね穏やかな夜である。
片や机上のデスクトップパソコンに齧りつき、片やソファーにゆったり沈んだ膝の上のモバイルノートに見入る。
無論、齧りついているのがお嬢、ゆったりしているのが若頭であった。
「・・500万の携帯が出るらしいな・・・」
「あー・・それ俺も見た。ネットのニュースに出てたろ?」
件のニュースが表示されているのだろう、モバイルノートから目を逸らさないままの征士の声には、驚いたような響きがある。
ふいに掛けられた声ではあったが、即座に反応した従弟の方は、休憩の切っ掛けでも探していたのか、これ幸いと椅子まで回して軽やかに振り向いた。
「ビックリだよなー」
と同意を求める当麻の言には、ただ驚いた、というよりは、(どんな奴が買うのかな?ってか、買う奴いるのかね?)というニュアンスも含まれていたのだが。
「・・・買うか?」
「・・・・・・・・・・・」
聞き慣れた深い美声が、いつもどおり語尾を上げずに問いかけてきて、押し黙る。
4歳の砌から・・かれこれ30年。きっと、世間さまと比較してもこれ以上はないくらいの濃い付き合いである。
いくらなんでももう知り尽くしたと思っていた従兄に、それでも未だに驚かされる当麻であった。
油断したところに膝カックンな感覚だ。
その上、語尾を上げない彼独特の疑問形は、乗り気なように聞こえてしまうので、尚更心臓に悪い。
「・・・・欲しいのか?」
派手に柳眉をしかめて伺う。
従兄が携帯電話の細かいボタン操作を苦手としている事は知っている。
件の携帯のデザインが、それでも買いたくなるようなものだったとは記憶していない。
案の定というか、なんというか。
返った答えは「お前に、だ。」であった。
「・・・・・・・・・」
あんぐり。。。
言葉も無く従兄のすました顔を見つめながら、当麻は頭の隅でチラッと考えた。
唐突な従兄の購買意欲の原因を。
来月は10月。自分の誕生日がやって来る。
・・・・それで、か・・・・。
征士の気持ちはくすぐったくも嬉しくもあるが、しかし。
「・・・・500万だぞ?」
「素材がホワイトゴールドだからな」
「・・・・・(ただの)携帯だぞ?」
「サファイアクリスタル鍍金で傷が付かんらしい」
当麻はやっと思い出した。従兄は、地味に新しモノ好きだった・・・。
プレゼントしてくれよう、という気持ちも勿論あろうが、興味もあるのだろう。
だが、興味があろうが無かろうが、“携帯電話に500万円”は当麻の常識でアリエナイ。
3〜4万でさえ、エライ時代になったもんだと嘆いているのだ。
「・・・・俺が欲しいっつったら、ソレ、買ってくれちゃうワケ?!」
非難を込めた問いにあっさり頷かれ。
「・・・・・・・・・・」
一瞬頭を抱えそうになったが、気を取り直した。
俺が止めねば、誰が止める?
思って、おキレイな従兄の目を真っ直ぐ見据え・・・・。
「バカだろ、お前。」
決然と、断言した。
「・・・何かないのか?欲しいものは・・・・」
詰られて拗ねたわけでもなかろうが、やはり気落ちした感は否めない調子で征士が問うのは、己の肩先。
寄り添うように(機嫌をとるように?)、へちゃ・・と凭れてソファーに納まる従弟である。
「・・う〜〜ん・・・・そんなコト言われてもなぁ・・・・」
金も力も頼りがいのある、がっしりした従兄の肩になつきながら、考えて・・はいるようだが、出来の良いオツムから妙案は・・・出てこない。
「んんんー・・・チョコ三か月分、とか・・・」
「誕生日祝いにか。」
呆れた口調で、即、却下。
給料3ヶ月分の贈り物ならまだしも・・・学祭のコンテストの景品じゃあるまいし・・・論外である。
「しかもお前、あったらあるだけ食べるだろうが。3ヶ月分がそんなにもつものか」
「・・・・それもそうだな・・」
流石は30年来の付き合い。
当麻の習性を知り尽くした従兄サマ。
いやにハッキリと未来予想図を描かれて、当麻は素直に同意した。
「・・・お前もバカだろう・・・」
仕返しに、と言うには力無くしみじみと言われて、はは・・と笑う。
「いっしょだな ♥」
「一緒・・・なのか・・・?」
「いっしょいっしょ。」
体側の温もりに和みながら征士が長期戦を覚悟した時、「それよりさ。」などと当麻は早くも戦線離脱を口にする。
「なんか腹減らない?」
「・・・・・・」
自らの肩先に流した征士の視線は、期待を込めて輝く蒼い垂れ目に囚われた。
「・・まぁ・・・付き合えはするが・・・」
口を付いて出た言葉は、言わされた感いっぱいだ。
「腹減ったー。・・ラーメンちゅくってぇ?征士ぃ」
「・・・・・・」
赤ちゃん言葉が似合うとは決して思わない(というか、女の子と言っても充分通用した4歳の当時でも、征士の従弟は幼稚な言葉でオネダリなどした試しはない・・・)が、甘えられると可愛いと思ってしまう ─── 自分はバカなのか、ビョーキなのか。
数瞬迷って、征士は結論を諦める。
「素材はあるのか?」
伊達組若頭として畏怖される男の素養に、残念ながら“料理”は無い。
そんな事は当麻も先刻承知であり、
「あるあるっ。生麺タイプのヤツが」
と詳細に語られた“素材”は、湯を注ぐ素材である。
「分かった。・・だが、」
それでも若頭自ら湯を沸かしてカップ麺を“作って”くれる気らしい。
立ち上がりながら、しかし上機嫌で見送る体勢の従弟に一言言い置くことも忘れなかった。
「・・・考えておけよ?誕生日に何が欲しいのか。」
「考えろって・・言われてもな〜・・・・・・」
ソファーに一人残された当麻は、うにょーんと仰け反りながら悩ましげに呟いた。
本当に、全く思いつかない。
(欲しいってことは、今現在、無くて困ってるって事だろ?)
(ぜんぜん困ってねぇもん、俺。)
お目出度いことこの上ない。
まぁ、確かに。
頼めばカップラーメンの準備までしてくれる、超絶キレイなカッコ可愛い(若頭を“可愛い”と評すのは、当麻だけである・・)従兄を持ち、日常たびたび好物のチョコレートが差し入れられるわ、美味しい食事に連れ出されるわ・・不足など、感じる暇もなさそうだ。
後頭部で両手を組んで、更に考えてみる。
(・・・物じゃなきゃ・・・・して欲しい事か?)
世の中には、“肩叩き券”の例もある。
(征士、出来ない事以外は何でもやってくれるしなぁ・・・)
やってくれ過ぎる程だろう。
(あ・・・・・)
ちょっと閃いたらしい。
(“安眠保証券”とか、作ってくんないかなぁ・・・)
(“拒否権発動容認券”でもいいけど・・・・・)
(いや、ダメなら“3回以上はナシ券”でも・・・・)
もしもこの思考を当麻付きの舎弟あたりが覗いたならば、似合わずとも頬を赤らめて俯いただろう。
そして。
当の若頭が耳にしたら。
一刀両断で却下されそうに思われるのだが。
果たして。。。
Fin
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