+++ Indigo Waltz +++
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Colorful Time 3
恋人は、プロのモデルである。
自動ドアの向こうにチラリと覗いたその蒼い残像が、他を圧して自分の目に飛び込んで来たのは、果たして彼の容姿故か愛の為せる技か(苦笑)。
つまらない疑問に答えを出すより先に、待ち望んだ人の姿がはっきりガラス越しに見えた。
片手に小さなスーツケースを引き、隣を歩く伸と何か話しながらこちらへ向かって歩いてくる。
黒いふわふわのファーコート。モコモコとかさ張りそうなロングコートが、なぜああまでスレンダーに着こなせるのか。
その裾を軽快な足どりで翻えらせて、確実に近づいてくる。
行く手を阻むガラス扉にふと上がった大きな目がまっすぐ自分を捕らえて。
効果音付きで花が咲いたかと思った。
蒼い大輪の花が。
「───っ征士ッ!」
走り寄ってきた勢いを胸で受け止めた。
抱きしめた温もり。
確かに感無量なのだが・・・・。
ファーコートの分も加味して予測した嵩と、実際の感触(抱きごこち)にズレがある気がして。
瞬間、感じた微かな驚きと不安。
だが、そんな些細な違和感は、見上げてくる嬉しそうな顔にあっさりと押し流された。
「・・・・会いたかった・・・・」
ため息と一緒に思わず零れた言葉。
「ん・・・・・オレも」
水が張ったような瞳で同じように返された応えに、慰められながら何かが込み上げて来る。
それを堪える為でもなかったのだが、勢いそのまま、恋人の形の良い唇へ自分のそれを押し当てて。
つくづく感じた。ずっとこうしたかったのだ、と。
パコパコッ。
「いつまでひっついてんだい?まったく・・・・」
頭に軽い衝撃。耳に煩い小言。
当麻にとっての真の保護者。私にとっての目の上のタンコブ。
(だが、ありがたいとは思っているのだ。私にはしてやれない事を、彼は当麻にしてやってくれるし、私に助言もくれる。確かに少々口うるさいが。)
手にした書類を丸めたもので、二人揃って頭を叩かれたらしい。
「写真でも撮られたらどうするんだ」とまだ続いていた小言に、流石に言われ慣れているのか、当麻は全く悪びれない。
私に抱きついていた腕は解いたものの、やはり寄り掛かるようにひっついたまま、「だって、嬉しいんだも〜ん」などと上機嫌だ。
が、忘れられて機嫌の良くない猫が一匹。
文句を言うようにニャァニャァ泣き出した。
「うわっ、エリーも迎えに来てくれたんだ?」
猫の不機嫌など頓着せず、当麻はキャリーバッグに取り付いて愛想を振り撒く。
ゴソゴソ動き回っては『ここから出せ〜っ』とカリカリ音を立てている仔猫は、「あ〜と〜で♪」と当麻に節付きで軽ーくあしらわれて、ほんの少し可愛そうである。
車に戻ればエリーもキャリーから出してやれる。
スーツケースは引き受けて、代わりに猫入りバッグは当麻に任せて、駐車場へ向かうべく促す。
歩き出したところで、ふいに心配そうに、当麻が見上げてきた。
なんだろうと、目で問うと、「征士、きょう仕事は・・・?」と。
何を変に気を回しているんだか・・・・。
そういえば、帰国の便を教えてくれたのも、本人ではなく伸だった事を思い出す。
人も羨む私の恋人は、概ね無邪気なくせに、ときに良く“気遣いの人”なのだ。
その気遣いは、時にいじらしく微笑ましく、時にこうして私を哀しくさせる。
・・・・・こういう気持ちも、知らなかった気持ちだ。
「ずっと、仕事をするしかなかったんだぞ?・・・こんな日まで仕事をしろとは、誰にも言わさん」
お前にも言わさないと、言外に理不尽さを表したつもりなのが、伝わったのか伝わらなかったのか。
恋人は伏目がちに微笑んで、「そう・・・?だったらいーや・・・・・ありがと。来てくれて」と、最後の方は聞き取れるかどうかぎりぎりの小さな声で、ふんわりのたまった。
一旦当麻の事務所へ寄って、伸を降ろすと共に帰国の挨拶を済ませたら、当麻の予定は本日フリー。
「夕食は何が食べたい?」との問いかけに、しばらく真剣に考え込んだ恋人の答えは、なぜか「もんじゃっ!!」だった。
全く予測しない音律に、しばし呆然とした。・・・・かも知れない。
曰く、「アツアツのもんじゃ焼きと、キンキンに冷えたビール。良くない?」と。
あまりに嬉しそうに言うので、深く考えもせずに「いいな」と答えてしまう。
なんと安上がりな恋人か・・・。寿司でもフグでもカニでも、どこにでも連れて行くつもりだったのだが。
まぁいい。
よほど親しい人間とでなければ、共には食べたくない物の一つが“もんじゃ焼き”である。
当麻と一緒につつくのは、ひどく楽しそうな気がした。
To be continued.
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