+++ Indigo Waltz +++
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Longer than forever 5
映像が持つストーリーに察しがつくと思ったら、テーマは多分、“眠り姫”だ。
いや、違った。
熱帯版“眠り王子”だった。
緑深い密林を行く女性探検家。華やかでワイルドな感じの美人だ。映像は彼女と共にジャングルの奥へと分け入っていく。と、ふいに開けた視界に森閑と佇む、植物に覆われた遺跡のような建造物。彼女は臆さず入っていき、そして宝を発見するのだ。
歴史から取り残されたような崩れかかったアジア風神殿(?)の最奥、樹木の如き大ぶりな植物の根に幾重にも絡め取られて、薄絹の麗人が玉座に捉われていた。蒼い髪に縁取られた貌に表情はなく、伏せられた青白い瞼はぴくりとも動かない。絡まった植物の隙間からしどけなく投げ出された細い片膝下の形状が、女性のものではないのにドキリとさせる。
息をつめた彼女と共に、映像を見るものも息をつめる。息苦しい程だ。
曳かれるように、彼女は玉座へ近づいていき・・・辿り着く。静と動の対比。
探検家とは思えない、彼女の奇麗な手が玉座の人物へゆっくりと差し伸べられる。と、二人に遠慮するように、少しずつ植物が退いていった。それにつれて露になる、捉われた彼のすべらかな白い胸、二の腕・・・。そのすっきりと細い上腕それぞれに、アンティークな銀の装飾品がつけられていた。その中で目を引くのは、妖艶な光を放つピジョンブラッド。
女性の緊張に震える手が、愛撫するように麗人の蒼い髪をこめかみから上へ掻き揚げる。剥き出しにされた無垢な耳にも生命の赤。
頑なに引かれた冷たそうな唇に口づける。
息ができない。
ゆっくりゆっくりと、口づけに誘われて開いてゆく瞼の下から現れる彼の人の瞳は・・・
征士の知っている、艶やかに呼吸する蒼ではなかった。
どこまでも冷たく透き通った、ゴールド。
「あれ?征士、来てたのか」
突然掛けられた声に、征士はテレビの前から振り返って声の主を確認する。蒼い瞳。そう、これが本物の色だ。
「あぁ、お帰り」
うん、ただいま。と微笑みながら、生きて生活している彼の人がリビングへ入ってきた。
「ん?何見てんの?」
征士の手元、ビデオテープを覗き込む彼から『来たい時に来て入ってればいい』と自宅の合鍵を渡されたのは2ヶ月くらい前になる。
「新作か?ジュエリーのCMだな」
「あー、それね」
それ金色のカラコン入れたんだけど、合わなくってすっげー痛かったんだよね。などと、画面の中から征士の息を止めさせた本人は夢を壊すようなコメントをしながら、もう持ち帰った荷物へ意識を向けている。
「そんなのよりさ、映画観よ。借りてきたんだ。ほら、これまだ観てないって言ってただろ?」
息を飲ませた自分の映像を“そんなの”呼ばわり。
俺も観たいと思ってたんだよね、と子供のようにはしゃいで向けられた完璧な笑顔に、苦笑しながら征士は逆らえない。逆らいたいと思ったことは、出会ってこの方一度もないが。
「何か飲むか?」
ツマミもあった方がいいだろうと思いながら、征士は映画鑑賞の準備に勝手知ったるキッチンへ向かった。
ベッドサイドの幽かな柔らかい明かりに、征士の胸の上で弛緩している尖った肩も、蜂蜜色に染まっている。しっとりと吸いつくようなその肌の質感とは対照的な、さらさらと指をすり抜ける感触がまた好ましく、蒼い髪を梳く手が止められない。
なかなか収まりきらない呼吸を持て余すように、ひとつ、当麻がため息をついた。
「そういえば、来月の10日は当麻の誕生日だったな」
「・・・・・・?」
気だるげに上げられた目が、ぼんやりと自分の顎辺りを捉えるのを征士は感じた。
「あれ・・・、俺、誕生日教えたっけ・・・?」
「いや?」
掠れて頼りない声に答えてやって、訳を明かす。
「雑誌の特集でプロフィールが載っていた」
「そーゆーの、読むんだ?」
お前が?と言いたそうに、クスクスと笑っている。
自分でもらしくない事をしている自覚のある征士は、憮然として天井を見上げた。
この魅力的な小悪魔は、可愛らしいが・・・小憎らしい。
「あぁ、読むんだ。お前の記事はな」
これだけプライベートで会っておきながら、お前が何も教えようとしないからだ、とは敢えて言わずにおく。
「何が欲しい?」
プレゼントのリクエストを訊いたとたん、腕の中の身体が少し強張るのが感じられた。ただ当たり前に訊いたつもりの征士は戸惑ってしまう。
「どうした?」
誤魔化すように身動ぎして、何でもない、と少し笑う。
「・・・何にもいらない」
変わらない、明るい声。
「遠慮する必要はない」
「してないよ、遠慮なんて。するように見えるか?」
いっそ軽薄に聞こえるほど、当麻の声は明るい。
「人から貰ったプレゼントって、後で困らない?ホントに只の友達ってんならいーんだけどさ」
くすっと笑って言下に示す。
「この前・・・ミャンマーの土産だとかでサファイヤのピアスなんぞを貰ってなかったか?」
私の目の前で。
男(友達)から。
同性の友人への土産に、なにゆえ男がピアスを買って来るのか。
甚だ疑問だったが、相手が当麻なら仕方ないかとも思ってしまう征士であった。
そして、そのオカシナ土産をその場で着けて、嬉しそうに『似合う?』と自分にまで訊いた当麻の表情が蘇える。
「だって、高志とは寝てないもん」
「・・・・・・・・」
そう、ですか・・・・・。
あまりのお言葉に征士の目は天井を彷徨う。
「会わなくなったらさ。どうすればいいか・・・。捨てるのは勿体ないし、返すってのも角が立つし、かといって持っとくのもなんだか・・・ツライし」
声の響きが空虚な気がして、征士は俄に焦りを感じる。
当麻の目を覗き込んで、その得体の知れないモノを確かめたい欲求にかられたが、当麻の顔が仰向けられることはなかった。
その目に映しているものさえ、征士とは違っていそうだ。
「ずっと会っていれば問題ないだろう」
別れることを前提にした当麻の言葉に、征士は納得できない、したくない焦燥感に駆られて反論してみる。が、どうしても足掻くような物言いになってしまった。
「ムリだよ。そんなの」
子供の駄々を嗜めるように、優しげに笑って返された。
言うなれば、ちゃんちゃん、だ。
流石の征士もとっさに返す言葉がない。行き場のない思いや言葉を胸に収めたまま、やはり憮然と黙るしかなかった。
静かに静かに、時間が降り積もっていく。都下とは名ばかりに長閑な国立の、住宅街の深夜は車の音などない。風の音も聞こえない。
穏やかな夜。
割り切れない気持ち。
胸にうつ伏せた当麻の睫が、瞬いて時々征士の胸をくすぐる。
まだ眠ってはいないのだと、明るい声の通りに彼も割り切れている訳ではないのだと征士に教えていた。
「・・・当麻?」
呼んでみる。
緩慢な身動ぎと、うめきにも似た返事が返された。
うー・・・ん、と伸び上がった当麻は、目を合わせないまま征士の頬に音を立てて口づける。
「眠い。・・・もう寝よ?おやすみ」
どこか焦点の合わない目でふわりと笑い、征士の腕からするりと逃れて背を向けた。
「落ちるぞ」
「ん・・・平気」
それ以上追いかけることは、征士にはできなかった。
今は。
To be continued.
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