+++ Indigo Waltz +++
mobile style >>novel>>


おひさまのよう。


おつかいに出掛けていた『むー』が帰って来た。お帰り。ご苦労ご苦労。
『むー』の報告によると、配達先では《エラーがでるほど》《異常に》なでられたらしい。
『おなかと背中がくっつきそう』だというので、おやつをあげる。うまい?
みんなが振り返るくらいかっこいい『むー』のおなかは、やっと満足したようだ。
体調:わんぱくすぎ?
幸福度:おひさまのよう。

パソコンのモニター上をとてとて歩くこの青いネコに、俺はときどき尋ねたくなる。
おひさまのように幸福って、どんなんだろう。



目が覚めた。ベッドの上。
シーツの上で手を泳がせてさぐってみる。
ゆっくりと、反対側へ寝返りもうってみる。
俺ひとりだ。
エリーもいないらしい。
静かだけど・・・何時だ?
苦労して手を伸ばして、サイドボードの電話を操作する。
『ゴゼン、11ジ、17フンデス』
そぅ・・・。辛うじて午前中。
だるい。

平日・・・だよな。今日は。
ベッドの脇に立ったまま。このままで、また寝られそうだけど。
まわらない頭で考える。
平日だったら、こんな時間にいるわけない。・・・は、とっくに会社だ。
ここ最近、貧血と低血圧の悪循環で俺の調子があんまり良くなかったから、起こさずに出掛けたんだろう。
本当に、静かだ。
なんか、さむい。

クローゼットを開けてみる。
たくさん並んだ、俺のじゃない、カッチリしたスーツ。
微かに染み込んだ、俺のじゃないコロンの香りも知ってるけど。
今朝は全然俺を安心させない。
静かだ。

洗面台にある2本のハブラシ。
俺のじゃないもう1本。
今朝も使われたはずだけど。
ほんとか?
洗面台の白さがウソクサイ。
水音さえウソクサイ。

下へ降りたら、エリーがいた。うごいてる。
にゃーんと鳴いて足へすり寄ってきたのを、抱き上げようと屈んだら。
目眩がしたから。
そのまま座り込んだ。
エリーも、抱き上げてもらえると思ったんだろう。
不思議そうに、心配そうに? 首をかしげて俺をみている。
だいじょうぶ。
座ったまま膝に抱いてやった。
あったかい。
これはウソじゃない。
やわらかい毛並みを撫でる。
おまえがいて、よかった。

そろそろいいかと、膝からエリーを降ろしてゆっくり立ち上がる。
立ち眩みが治まるのを待って足を踏み出したその先で、ちょうど電話が鳴り出した。

「・・・はい・・・?」
かなり掠れた俺の声に、受話器を通して苦笑が返る。
『私だ。おはよう』
・・・・・・とっさに言葉がでてこない。
『そろそろ起きた頃かと思ってな。具合は?』
「・・・・・・・・・征士・・・」
ため息みたいに呼ぶのを、俺は止められなかった。
『ん?どうした。増血剤は飲んだのか?』
顔の筋肉の動かし方を、やっと思い出した。顔をあげると、窓から明るい日が差していた。
「まだ。今から飲む」
ちゃんと飲め。冷蔵庫の中にサラダがあるぞ、なるべく早く帰るからと、俺の好きな低い声が言う。
「うん。ありがと。平気」
ここにいなくても、俺を暖めてくれるこの声はホント。
外はよく晴れてる。

おひさまのよう?


Fin


Novel list Topへ


↓公告表示エリア