this page is...novel
BODY & SOUL 1

BODY & SOUL 1

「まてぇ、せぃじ。ひきょーじゃねーかっ。にげるなっつってんだろぉ!」
落ち着いた日本庭園に子供の甲高い声が響く。
さっきまで嬌声を上げながら機嫌よく遊んでいたと思ったのが、いつの間にか舌足らずにも小生意気な口調で怒鳴りながら、小さな唇を尖らせて同い年の従兄を追いかけている。
三日前に手を引かれてこの家の門を潜りながら、ちょっと不安げに自分を見上げた子供。
心配した程のこともなく家人に慣れた、物怖じしない様子に安堵する。
極端に家業を嫌って家を出た次女の遺した孫息子は、さらさらと柔らかな蒼みがかった髪に縁取られた頬の丸みも愛らしい、大きな目をした子供だった。
その印象的な瞳はどこまでも澄んで蒼く、表情に合わせてくるくると微妙に色を変える。娘が選んだ、そして自分が許さなかった、男の血なのかも知れない。だがその瞳は、闊達なその子供に実に良く似合っていた。
凛々しいと言えば聞こえは良いが、自分にも似て表情が乏しい感のある、長女の息子とはキレイに対照的なその子供は、名を当麻という。
しかし、女の子にも見違える優しい顔立ちからは想像もつかぬ程に、口を開くと完全な悪ガキである。
四つという年齢からしても特異なくらい大人っぽい口調で語彙の多さにも驚かされる。
ときどき、意味を理解して使っているのかどうか疑問に思うほど子供らしくない言葉も口にするが、使用例に間違いは見られない。
その難しい言葉が混ざったべらんめぇ口調と、時たま舌足らずになる様子と愛らしい顔立ちのギャップが周囲の笑みを誘い、結果、どんな生意気なべらんめぇも、皆笑って容認しているという、教育的にはあまり宜しくない状況ではある。
「なんだよ。ヤルか?ヤルのか?」
庭を駆けていた、その頼りなくも感じる細い足をつと止めて、同い年でありながら自分より少し大きな従兄に、挑戦的な悪童の笑みを向けた。
小粒な白い歯が、赤く目を引く下唇を噛み締めて。
あどけない顔に浮かんだニヤーッとしか表現できない笑みが、それでも可愛らしくて仕方ないと、東日本連合会のドンと恐れられる初老の男は目を細める。と同時に、決意のようなものを胸に刻んだ。
この子は極道にはしない、と。
この家で、自分の手元で何不自由なく、それでもあくまでカタギに育ててみせる、と。
こんなに可愛い子供を一人残してさぞ心残りだったろう、先に逝かせてしまった娘夫婦に誓うように。

「あぁっ!」
足を滑らせて庭土に片膝を突いた当麻に男は慌てて立ち上がりかけたが、思い直して見守ることにする。
既に駆け寄っていたもう一人の孫のまだ小さな手が、それでも頼もしく、稚い膝を払ってやっていた。
「ほら、だいじょうぶだ。なくな」
「ないてないもん・・・」
明らかな涙目で、それでもやたらと強がる従弟に気分を損ねることもなく、征士は手を差し出した。そして、瞬時にその小さな胸の中でどんな葛藤に折り合いをつけたのか、当麻もすぐにその手を握った。

大丈夫だ。二親がいなくとも、淋しい思いなど決してさせん。
男は安堵に頬を緩めながら、改めて誓った。

novel  next