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BODY & SOUL 13

BODY & SOUL 13

サクサクのパイに木イチゴ酒で香りづけした特製クリームとイチゴが、贅沢に、何層にもサンドされている・・・・らしい。
なんとも可愛らしいミルフィーユを前に、男たちは如何にも居心地が悪そうだ。
しかも、居心地の悪さは甘そうな・・どうやって手を付けて良いやら見当もつかないケーキのせいばかりでもない。
普段会うことなど滅多にない、会長、とか・・・人によっては御前とも呼ぶ、裏社会のカオが目の前にいらっしゃるのだ。
その、怒っているわけではなくとも厳しい、しかも訳知り顔で視線を流され、
「何じゃ、お前たちは。・・・征士のトバッチリか?」
などと声をかけられても。
・・・・何と答えて良いやら・・・しかし答えないワケにもいかず。
舎弟二人─── 沢木と藤崎は、賑々しいティータイムの席で冷や汗のかき通しである。
視線のやり場にも困って、その流れで沢木はチラッと当麻の様子を窺う。
顔色もほぼ良好。ちょっとサドっ気混じりではあるが、どうやら機嫌良く笑んでいる様子に、強面を困惑に強張らせたまま内心で胸を撫で下ろした。
お嬢のご機嫌麗しい様だけが、彼の唯一の救いであった・・・。
そして、元凶の若頭は。
表情という表情も窺えない、いつもどおりの彫刻のような美貌で、泰然と座ってはいるが。
その実情は、舎弟二人とご同様だ。
「お前・・・何をやらかした?」と、孫をいびる事に生き甲斐をみいだしている祖父に、愉しそうに小声で訊かれ。
「・・・・・内緒です・・・・」と低音で渋く答えたばかり。
その遣り取りをすぐ隣で聞いていた当麻は、これまた愉しそうにクスクスと一人で笑っていた。
罰ゲーム、第2弾。
苦手な甘〜いケーキ、しかも食べ難いミルフィーユを、衆人環視のもとで食すべし。
更に、衆人は主筋の人間オンパレード。
そして、この主筋の人間たちは、我らが蒼いサド侯爵と血の繋がった人々でもあるわけで。
早い話がみんなサドだ。
状況から、俄かに開催されたティーパーティーの趣旨が罰ゲームだという事は、誰の目にも明らかである。
「んー・・・やっぱり美味しいわぁ、ココのケーキ!」 (そう・・・ですか・・・・)
「ありがとう!オニイチャン!!」 (礼を言われてもな・・・・・)
「さ、貴方たちも食べて?」 (・・・どうやって・・・・?)
「どうぞ。お茶も入りましたから」 (・・・・・・・・・)
母親、姉妹、プラス手伝いの女性、全てがことごとく当麻の味方だった・・・。

「んー♥ ホントだ。チョー美味い〜♪」
周りの笑みをも誘うほど嬉しそうに、器用にミルフィーユを頬張っていた当麻が「ん?」と一瞬動きを止めてから、紅茶のカップに手を伸ばした。
片手でお茶を飲みながら、片手で何やら点滅中の携帯電話を取り出す。
サブウィンドーで電話の相手を確認すると、「ちょっと・・・ゴメン」と言って席を立ってしまった。
その後ろ姿をもう一人の孫の目が気掛かりそうに追うのを、二人の祖父であるところの男は可笑しく見守った。
こそばゆいような、照れ臭いような。
(・・・参ったな・・・。こっちが恥ずかしいわ・・・・)
胸に独りごちて、照れを誤魔化すように紅茶カップへ口をつけた。
しばらく廊下で電話に応えていた当麻が、ティールームに戻っては来たが、また部屋の一角、壁に取り付けた内線電話を使い始める。
所どころ漏れ聞こえてくる言葉から推測するに、どうやら相手は組事務所の舎弟。門の前で覆面(パトカー)を待たせておけと指示しているようだ。
(おぃおぃ・・・主催が出掛けるのか・・・)
思って隣の孫を見遣ると、眉間に皺を寄せている。
(・・・分かり易いのぅ・・・・)
とは、流石のお祖父様、だ。
「ごめんね〜。警察からだったぁ。遺体出たってゆーから、ちょっと見て来る」
と言っても、モチロン野次馬に行くのではない。
パトカーの送迎付で、検死にお出かけ、だ。
当麻には慣れた事ではあるが、遺体云々の話は少し憚りがあるので、祖父と従兄にだけ断りを入れて。
「んじゃ。行ってくる♪」
「あぁ、気をつけてな」
と、すんなり見送ろうとしたのは祖父だけだった。
征士は無言のまま、踵を返して部屋を出て行こうとしている従弟を目で追い・・・・やおら立ち上がって、大股に従弟を追いかけて行く。
日頃どっしり構えた御大も、それを見せられては吹き出すのを堪えるのが精一杯であった。

「当麻!」
呼び止めて振り向かせたまでは勢いも良かったのだが、果たして何を言うべきか迷って、征士は従弟の間近まで寄って立ち尽くした。
立派なオレ様ではありながら、なに?・・・と小首を傾げる仕草も何故か愛らしく似合っている当麻は少し窺うように従兄を見ていたが、あまり間をおかずにふわりと笑う。
「大丈夫だよ?」
征士は瞠目して(実際表情に大した動きはなかったが・・・)従弟を見詰める。
「自殺らしいって言ってたから、・・・何もオカシナ事が無かったら、検案書書いてすぐ戻る」
自身にも自覚の無かった、「行かせたくない」と言う腹の底の願望を、従弟はちゃんと読み取ってくれたようで。
征士はなんとも言えない気持ちになる。
「バカ・・・そんな顔すんな・・・」
どんな顔をしていると言うのか。
全く分からなかったが、当麻がやけに優しい表情でピタピタと軽く頬を叩いたので、そんな顔だったのだろう、と思うしかない。
「すぐ帰るって」
目を覗き込んで言う従弟に、征士は黙って頷いて見せた。
が、やはり心配である。
「・・・大丈夫なのか?」
私のせい、なのだが・・・・とは口には出来なかったが、やはり当麻は違える事無く察する。
「さっき痛み止め飲んだ」
「そうか・・・・・」
沈む征士の声を、従弟は尚更笑う。
「平気だから。・・・ほら、戻ってケーキ食え。」
そして、声を低めて付け足した。
「それで、チャラにしてやる。」
ニヤッと人の悪い笑みを浮かべて、征士の胸を握った拳で小突いて。
じゃぁな、と肩越しに手を振って、従弟は歩き去っていく。
どうもあっさりと、・・・・・許されたらしい。
敵わんな・・・と苦笑しながら、征士はその後ろ姿を見送った。

「なんだ。“お許し”は出たのか?」
涼しい顔で隣へ戻ってきた孫に、祖父は意地悪く尋ねる。
当麻の機嫌の良さから、もうとうに怒りは解けているだろうと察しはついていたが、どうしてもからかってやりたくなったのだ。
どんな答えを期待したのか?
そう問われると考え込んでしまうが。
少なくとも、こうではないと、思っていた。
「・・・・いぇ・・・。もう少し先でしょう」
そう答えた孫の表情は、俯いていたのではっきりしなかった。
が、声の微妙な響きと頬の筋肉の僅かな緊張から鑑みるに、笑っている、ようである。
・・・・・クソ面白くない。
年甲斐も無く、まるでもう一人の孫が普段口にするような奔放な言葉が胸に沸いて、裏社会のドンと囁かれる男は派手に顔を顰めた。
もう十何年も昔、大切に可愛がってきた孫に手を出したとほざくのは、ドコの馬の骨かと思ったらウチの馬の骨だった、という苦々しい経験も脳裏に蘇り。
馬の骨本人から告白された時の怒りも再燃しようというもの。
ナンの“お許し”じゃ!このバカがッ。
腹の中に一人吐き捨てて、不機嫌は治まらず。
一言返さずにはいられなくなった。
「当分許さんでイイと言っておいてヤルわっ」
それを聞いて、孫は今度こそクックッと、本当に笑い出す。
祖父の血圧は暫く下がりそうに無かった。
「それはそうと。・・・・このボロボロ崩れる難儀なモノは、一体どうやって食べればイイのでしょう?」
「知るか。」
困っていないワケでは決してなさそうな・・・しかし完全に優勢な征士と、明らかに劣勢な大人物の会話を、沢木と藤崎は少し離れた末席で目を白黒させながら見守っていた。

fin.
novel