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their daily life 3

their daily life 3an extra of "BODY&SOUL" - an alchemist -

『社長。川内の“先生”から、お電話です』
と取り次がれた電話によって、三城の孤独な夜食は中断された。
咀嚼中のものを急いで飲み込む。

組内では、親しみと周りへの優越感も込めて“お嬢”と呼ばれる当麻であるが、企業舎弟とはいえ組内とは一つ隔たったここでは、“先生”などと呼ばれている。
裏社会屈指の勢力を誇る東日本連合会会長の孫、直系二次団体最大組織・伊達組組長の甥、同若頭の従弟兼恋人でありながら、一応の建前上、組とは距離を置く彼は、それでも三城にとって憧れのヒトだ。
医者であり大学の准教授であるという所は、同じ頭脳労働者として親しみを覚えはするが、伝説のような逸話も多い当麻には、その怜悧な蒼い目も手伝ってか、一種近づきがたい雰囲気もある。
だが、一度その垣根を越えて彼の内側へ入れてもらえたら・・・・それはもう、やみつきになる程の快感と、誇らしさと優越感が得られる。
そしてその、鳥肌が立つような心地良さを持続させるためには、当麻に認められる自分であり続けなければならない。
彼を失望させるようではお話にもならない。
“当麻さん”と、かなり対等に呼ばせて貰う三城には彼なりの誇りと自負があるのである。
彼に期待される以上のものを返したい、といつも切望している三城であった。

薄暗い部屋には数々のモニター画面が様々な映像と株価の動きを映し出している。
申し訳程度に照らし出された卓上、電話の外線ボタンに掛けた指を押し下げられないまま、三城は瞬間自問する。
(行けるか・・・?)
まだほんの少しではあるが、夜食とともに、確実に飲んでしまっている・・・。
酒気帯びの検査を受けるワケではないが、相手は“あの”当麻だ。
電話越しとはいえアルコール漬けで対峙できる相手ではない。
既に飲んでしまった分は仕方がないが、これ以上飲んでどうする?と自らを戒めて、ワイングラスを遠ざけ。フォークを乗せたままのパスタ皿も遠ざけ。
「お待たせしました。三城です。」
男29歳、独身貴族はスマシタ声色で応えた。
『オレオレ。悪ィな、遅くに。今平気か?』
「勿論です。」
とは、笑わせる・・・。
「どうされました?」
普段より微妙にハスキーに響くような気がする当麻の声をチラリと気にしながら、かなり真面目に促すのだった。
『んー。あのさ。・・・八菱商事と田丸重工って、なんかカンケーあったっけ?』
「・・・・・・・・・」
唐突な、軽〜い謎掛けのようでいて、コノお方の質問がそんな単純なモノでないことは重々承知していた。
三城は目を伏せ、眉間に皺まで寄せて真剣に考え込む。
当麻の言う2社は、どちらもイワユル大企業。
だが全くの異業種で、業務上の関わりは無かったはずだ。
三城は脳内データベースから、話題の2社の経営者、役員の顔を端から引き当てて吟味する。
『事業に限んないでも、縁戚関係とかさぁ』
三城の勘繰り通り、当麻の求める答えは個人の繋がりにまで及ぶ。
「えぇ。考えてみたんですが・・・・いえ。特に何も、繋がりは無かったと思います・・・・・」
以心伝心。問いの意図を念押しする必要も無かったくらいのスピード回答に、電話口から当麻の満足そうな様子が伝わってくる。
『う〜ん。やっぱそーか・・・。俺も記憶に無かったんだよな。・・・征士も思い当たらねぇって。』
と言う最後の伝聞は、一言も言葉を使わずに目だけで為された会話の結論なのだが・・・三城に分かろうはずもない。
『・・・それがさ、さっきテレビのニュースで八菱の会長の通夜やっててさ。』
飄々と続く当麻の言葉。
モニターの映像だけが賑やかな室内で、三城は何もない、暗い壁を見つめて目を細めた。
『そこに田丸の社長が来てたんだよな。かなりガードされてたけど、ちらっと映ってた』
「なにか、有りますね・・・」
『臭うだろ?』
「かなり。」
意味深な笑みをふんだんに潜ませた問いと応え。
三城はじわじわと盛り上がってくる高揚感に口角を引き上げた。
未発表の提携話が存在する可能性が・・有る。
八菱商事と田丸重工、誰もが名前は良く知る大企業同士の提携なら、かなり大きな話だ。もし本当なら、発表された途端に株価は急上昇するだろう。
「すぐに調べます。あ・・・そのニュース映像は?」
『ん・・・』
の後に続いた当麻の言葉は、返答ではなく“呼びかけ”だった。

『なぁ・・・』

その言葉を形作る、七割以上が吐息なんじゃないか・・・と思うくらいのハスキーな囁き声が、三城の背筋に電流を走らせる。
・・・不思議だ。
露出度の高い、ナイスバディな美女に耳元で囁かれたワケでもあるまいに・・・。
しかし。
当然の流れとして、それが自分に対する呼びかけだと思った三城は、・・・自意識過剰だったのだろうか・・・?
『俺がさっき、待ってっつったの・・・いつ頃だった?』
聞いたこともない艶っぽい声音が語りかけるのは、彼の手にあるはずの受話器よりも近く・・・らしく。
『・・・時計は見ていないが・・・20分くらい前じゃないのか?・・30分とは経ってないだろう』
穏やかに答える声は、三城が知るよりも明らかに優しげに響く、耳に心地よい低音。
・・・そうだった。
いきなり現れたように見えた“第三者”は、考えるまでもなく、このお方しかいないではないか。
いつ如何なる時も、無条件に当麻の内側に入ることを許された人物。
伊達組若頭、三城がボスと仰ぐ、ただ一人の男。
その渋い声に、『ん・・・そだな。』とあっさり同意して、憧れのヒトはやっと電話越しの三城へ向き直ってくれた。
『DNSテレビの22時半からのニュースでな、』
「今から約20分前に流れた、と?」
『そう。』
満足そうな笑みが見えるような、当麻の返事。
・・・仕方がない。
電話の向こうの二人の仲が良いのは結構なことだし、またそうでなくては非常に困る。
だがしかし。
今回のこの、かなり大きく面白くなりそうな予感がする経済ゲームには、三城も加えてもらうのだ。
「調べた結果はまた、追ってすぐにご連絡します」
是が非でも仲間に入れてもらうつもりできっぱりと言った三城だったが。
『んー・・・、いや。俺はいーや』
と、当麻はツレナイ返事。
ついさっき、二人でほくそ笑んだあの一体感はなんだったのかと、三城は肩透かしを食うと同時に落胆させられる。
言い出しっぺのくせに、イチ抜けようとするとは・・・。
『後の報告は、征士に上げてくれ。』などと・・・。
いくら株買うか、俺じゃ意見のしようがねぇし。と続ける当麻に、三城はそれでも食い下がった。
「わかりました。でも・・・メールはお送りしますから。(ゼッタイ読んでくださいね。)」
『・・・律儀なヤツ・・・』
「いえ。そうじゃなくて・・・見捨てられたみたいで、俺が寂しくなるでしょう?」
そろそろ三十路男の少々情けない言葉は、狙い通りに当麻の笑いをとって了承された。

about 10 days later...

『現時点で、概算ですが・・・1,300億を超えました。』
三城の報告に、伊達組若頭は自室のソファーに沈んだまま、目を伏せて静かに嗤った。
1,300億 ─── 売り抜けた株価から投資額を差し引いた、利益の額面である。
あの後、故人の初七日を過ぎて大々的に発表された巨大企業2社の業務提携により、両社の株は一気に高騰した。
当麻と三城の読みどおり、であった。

それにしても、1,300億とは・・・我が従弟ながら、やってくれる・・・。

感心半分、呆れ半分。
征士の抱いた感慨は、どうやら三城とも共通するものだったらしい。
電話口からため息まじりの言葉がこぼれ出る。
『・・・何なんでしょうかね?・・あのヒトは・・・・』
ニュース映像の隅っこに、チラッと映っただけの情報から・・・1,300億。
言わば、全トレーダーの“夢”だろう。
『ウチの連中もみんな、のぼせてしまって・・・・完全に“HERO”・・・というか、下手すりゃ“神”ですよ』
株の売買や株価の監視でいつも以上に忙殺されているだろうに、時間を見つけては目を皿のようにしてニュース映像に見入る面々が目が浮かぶ。
そんな部下達のカブレぶりが、三城には一種、宗教のように映ったのだろう。 『確かに気持ちは分かるんですがね・・・』 「・・そうそう転がっているハナシでもないだろうしな」
と、苦笑しながら冷静な二人。
「・・・だがまぁ、アレはお前に電話をしただけ。実際に稼ぎ出したのはお前たちだ。・・労ってやれ」
『ありがとうございます・・!』
「それから・・」
神妙な声色になった三城に、若頭は更に厳しい調子で付け加えた。
「2課から国税から、ごっそり動くぞ。覚悟して“キレイに”しておけ」
「・・心得ました。お任せください」
当麻の電話に端を発した今回の騒動。
喜ばしい騒動ではあるが、しかし。
まだしばらく休ませては貰えそうにない三城であった。

『ところで、今日は当麻さんは・・・・?』
窺う部下に、征士はついさっき受けた、従弟からの電話 ─── 情けない声を思い出す。
「白骨遺体が出たそうだ。骨ジグソー(パズル)に嵌まったらしい。まだ帰らん」
『そうですか・・・そりゃ気の毒に・・・』
と言葉面は気遣っているが、二人ともどこか面白がっている。
遺体だの解剖だの、笑い事ではない真面目でちょっとグロテスクな話題も、ある意味大らかに、軽く笑い話にしてしまう傾向がある伊達一門だ。
家業のせい、とばかりは言い切れない。・・・確実に、困ったセンセイの影響だろう。
『また、改めてお礼に伺いたいんですが・・・?』
1,300億の礼である。
ちょっと判断が付きかねるのだろう、途方に暮れたように響く部下の言に、若頭は無造作に答えた。
曰く、ワインの一本でもぶら下げて飲みに来い、と。
『・・・そんな事で・・よろしいんでしょうか・・・?』
一緒に飲む場を持てるのはとても嬉しいが、それで果たして礼になるのか。
雄弁に不安を表した三城の問いに、やはり征士の言は揺るがない。
『・・・分かりました。ツマミも揃えて伺わせて頂きます。』
ようやく腹を括ったらしい部下に、若頭は鷹揚に頷くのだった。

以前、征士の父の手伝いで当麻が約4億の利益を稼ぎ出した時、甥の手腕を喜んだ征士の父は、往年のスーパーカーをポンッと一台 当麻に買い与えている。
それを鑑みても、果たして今回は何が・・・と迷った征士も、本人に希望を訊いてみたのだ。
実は。
だが、返った答えは
「え?いーよ」
だった。
特別何も必要ない、と言うのだ。
それを聞いた征士の顔が、いかにも納得いかなそうに見えたのか、不満げに見えたのか。
当麻は笑って言葉を継いだ。
「んじゃ、また美味いもん食いに連れてけよ」
と。
だがしかし、それでは日常と何ら変わらない。
「んー・・・休暇とれんなら旅行行くのもイイけど。まぁどっちにしろ、遊ぶ資金にしよーぜ?」
な?・・・と、こくびを傾げて垂れた蒼い目に覗き込まれて。
従弟と一緒に“遊ぶ”のに否やのあろうはずもない征士は、不本意を引っ込めた。
・・・のだが。

吸い付けた煙草の煙が緩やかに立ち昇る様を、征士はぼんやりと眺めた。

酒の席での話題には上るかも知れないが、
今回の発端、従弟がニュース映像のスミから推理を働かせたのが、まさに“とりこみ中”だった事実は・・・自分の口からは話題にするまい・・・・・。

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