this page is...novelうちの猫は、こんなに自己主張する猫だったろうか・・・?
口数が多いというか、活発というか、勝ち気というか・・・。
いや、少なくとも今まで、私の前では大人しくて物分りのいい、手のかからない猫だったのだ。
・・・が。
こっちが本来の姿なのか、それとも久しぶりの当麻の帰宅にテンションを上げたものか。
彩り豊かなリビングテーブルの向こう、バスローブ姿のまま嬉しそうにワイングラスを傾けている当麻の膝の上で伸び上がって、猫は賑やかに一生懸命何かを訴えている。
んにゃぁ〜〜にゃぁにゃぁ
「ん?俺は征士と飲んでんだもん。まだ寝ませんー。」
にゃにゃ、にゃーうー
「眠くないってば。お前が眠いのは、お前の勝手。ここで寝たらどぅよ?」
うにゃっ。にゃーーー
「ベッドで寝たいんだったら一人で寝に行きゃいーだろ?」
にゃ〜う〜〜、にゃにゃにゃにゃ〜
「イーヤーでーすっ。一緒がいいならここで寝なさいって」
驚くやら感心するやらで、私はただただ甘えて駄々をこねている猫と、事も無げにそれと会話をする恋人を眺めているしかない。
どうやら、眠くなったので一緒に寝に行ってくれと主張しているらしいのだ。
私は猫語は解さないが、当麻と猫の会話があまりにも違和感なく丁々発止と絶妙に交わされているので、もう、そうとしか思えない。
「あ〜も〜〜。ウルサイよっ、お前はぁ!」
口調・目顔ともに7割ほど本気を湛えた当麻に、とうとう叱られてしまった。
少し可哀想な気もするが・・・ここは黙って見守ることにする。
すまん、エリー。まだ夜は長い。
ここでお前に当麻を譲るわけにはいかんのだ。
フォローしてやれない後ろめたさを感じつつ見ていると、猫はしばらく当麻の周りをウロウロしてから、さっき叱られた事など忘れたように当麻の膝によじ登って丸くなった。
「最初から大人しくこうしてれば良かったんじゃねーの?」
からかい口調ながら、エリーの毛並みを撫でる当麻の指は優しい。
一件落着である。
恋人は、どこか夢見るような笑顔で足細のグラスの中身を揺らしている。
ふと上がって私を見た大きな蒼い目は潤んで膜が張ったようで、適度に酔っているらしい。
まだワインは、一瓶空くところまでは至っていないのだが、その割りに酔いの回りは速そうなのが気にかかる。疲れているのではないか、と。
「アルコールってさ・・・、誰と一緒に飲むか・・・とか、何処で飲むかによって、回り方変わらない?」
「 あぁ、確かに・・・。仕事の関係で飲んでも、あまり酔った記憶はないな」
我が身を振り返って答えると、当麻は嬉しそうに「だろ?」と笑みを深める。
体調のせいでないのなら、寛げているせいだというのなら、楽しく酔うのは賛成だ。
「飲んだ量というよりは、精神的なものに左右されるのかも知れんな」
まだ完全に信用したわけではないが、リラックスできているせいだと言うなら、もう少し様子をみることにする。
「うん。俺もそー思う」
空いた自分のグラスに注ぎ足そうとボトルを傾けだすと、向かいからもスーッとグラスが滑らされて来た。『こっちにも♥ 』と無言のうちに要求する上機嫌な表情に、『大丈夫なのか?』と一応横目で問う。
平気平気、と言いたいのだろう、こっくりこっくり大きく頷く仕草の幼さに余計怪しみながら、それでも注いでやってしまう自分が如何ともしがたい。
まぁ、いいだろう。
酔いで艶っぽくなりすぎた目も、無防備に振りまかれる愛想も、目にするのは私だけだ。
「ありがと。コレ美味いね♪」
少し小首を傾げるようにして向けられた笑顔に、きっと自分の顔も緩んでいるに違いない。
「俺ねぇ、伸と飲むのと、征士と飲むのが一番回るぅー」
・・・油断していたところへ、この爆弾投下。
何気なくサラッと言われたが、これはかなり・・・・・私にとって嬉しい爆弾発言だった。
しばし反応を返せず、「・・・・そうか・・・。それは、光栄だ・・・」と、妙に噛み締めたような返事をしてしまう。
自分と同列に他人が一人並べられている事は不満ではない。
もちろん、唯一人の首位に躍り出たい願望はあるが。
仕方が無い。
彼は、恋人にとって至極特別な人物である。
一つには仕事の上でのパートナーという事もあるが、それ以上に。プライベートな面において、本当の親にも勝る(と言い切ってしまってはご両親に失礼か?)“無償の愛”の人なのだ。
この無償の〜という一義を採っても、私は彼に敵わない。
自ら望んで“恋人”という立場に立つ私の当麻への気持ちは、決して無償の愛ではあり得ないからだ。
どうしても、相手から返される気持ちを望んでしまう。
そういう意味で当麻を好きなのだから仕方が無いとは思うが、伸には勝てない、とも思うのだ。
(当麻が自分にそういう事を望んでいる訳ではないから、という理由で、長年、時には同じベッドで眠りながら今の今まで一度も手を出していない、などと・・・・私に真似のできる事ではない。絶対に。)
そんな尊敬すべき男と同等に信頼されるとは・・・などと密かに感動していたのだが。
ふと気づくと、正面で頬杖をついた恋人が、ニコニコ・・・ニコニコ・・・。
真っ直ぐ向けられた蕩けるような笑顔に、ついつい手が伸びた。
・・・・・滑らかな、頬の感触。
触ろうと思えば触れられる距離に居ることに、また喜びを噛み締めて。
「今日は、こうできるだけで充分な気がするな・・・・」
言った途端に、当麻は悪戯好きな子供のように笑って。
「じゃ、今日はちょっと離れて寝てみる?」
・・・・イヤに嬉しそうに言ってくれる。
「で、明日は手ぇ繋いで寝てー、明後日はひっついて寝るとか・・・、勿体つけて小出しにしてくの」
「あぁ、・・・・そうするか?」
なんとなく、それも面白そうな気がして・・・・本当にそれでも充分満たされる気がして、笑って同意してみる。
果たして自分の表情に大人の余裕を出せたかどうか、そこのところは自信がないが。